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ウイグル民話・木馬 [20061201]


木  馬


江上鶴也訳 『ウイグル民話集』より



 むかし、木工屋と鍛冶屋がいて、二人はいつもケンカしていました。

 ある日、二人はいつものようにケンカして、

 「俺の仕事はお前のより上だ」と、木工屋が言うと、鍛冶屋も負けずに、

 「いいや、俺の仕事の方がお前のより上等だ」と言い返しました。

 いったい、どっちの仕事が上か、この重大な問題にケリをつけるために、とうとう王様に訴え出て、解決してもらうことにしました。

 王様は二人の職人が騒いでいるのをとがめました。

 「うむ、何しにここへ来たんだ。お前達、何をそんなに言い争っているのだ」

 二人の職人は、自分達がどうしていつもケンカしているのか、詳しく説明しました。

 しかし、王様は二人の話を聞いても、どうもよく理解できない様子でした。

 「私はまだお前達の仕事を見たことがない。お前達のどっちがいい仕事をするの分からん。それでだ、十日の内にお前達の作ったものを持って来て見せなさい」

 「王様、よーく分かりました」

 深々とおじぎした木工屋と鍛冶屋の二人は、それぞれ家に帰って行きました。

 彼等はお互いに、今まで誰も作ったことがないすばらしいものを作ってやろうと心に決めて、早速、仕事に取り掛かりました。

 ちょうど十日目、木工屋と鍛冶屋は、自分達が作ったものを持って王様の所へやって来ました。

 鍛冶屋は鉄の魚を作りました。
 
 王様はこれを見て鍛冶屋に、

 「おい、鍛冶屋。何だ、これは。何を作ったんだ、お前は」と聞きました。

 鍛冶屋はひどく緊張して、

 「はー、王様。こ、この鉄の魚は、いろんな事が、できるのであります。とても便利であります。これ、これに乗っていろんな川、いろんな海を渡ることが、で、できるのであります。い、いろんな国々を見ることが、できるのであります」と答えました。

 「おい、鍛冶屋。この大バカ者め。これは鉄なんだぞ、鉄の魚が泳げるのだと、この鉄の魚に乗っていろんな国を旅できるのだと、お前、頭がおかしくなったのか」

 王様は鍛冶屋をバカにして大笑いしました。

 鍛冶屋は恐縮し少し震えて、

 「ほ、ほんとにその通りであります。王様、うそ、うそなんかでは、絶対ありませんです」と答えました。

 王様は鍛冶屋の言ったことが本当かどうかを試そうと、麦がいっぱい詰まった麦袋を十万持ってこさせ命令しました。

 「よーし、鍛冶屋。それじゃ、お前、この十万の麦袋を、あの鉄の魚に乗せて奇跡を起こしてみせろ」

 鍛冶屋は、朝飯前と言わんばかりに、さっさと麦袋を鉄の魚に積み込んで湖に浮かべ、鉄の魚のどこかをひねりました。
 すると、どうでしょう。
 鉄の魚は生きている魚よりも元気よく、速く泳ぎだしました。
 このまったく信じられない《奇跡》を見た王様は、『口が耳まで裂けるくらい』大口開けて驚き、手を叩いて大喜びしました。

 鍛冶屋は、勝ち誇ったように得意満面で、ぴーんと背筋を伸ばし胸を張り、湖を一周して、無事、王様の所へもどって来ました。

 王様はにこにこしながら鍛冶屋を迎えて、ほめたたえました。

 「鍛冶屋、よくやった。でかしたぞ」

 そして、ほうびをたくさん与えました。

 さて、木工屋の作ったものは、翼のある木の馬でした。

 この木馬の秘密を知らない王様は、鍛冶屋が作った鉄の魚にすっかり興奮していて、木馬には全然興味なさそうに、バカにしました。

 「おい、木工屋。何だこれは、まるで小さな子どもが遊ぶオモチャのようじゃないか」

 木工屋は王様にバカにされても落ち着いて、

 「王様、この木馬、右の耳をひねれば、たちまち空に舞い上がります。左の耳をひねれば、たちまち地上に舞い降ります。速くひねればひねるほど速く、高く飛びます。この木馬に乗ってどこにでも好きな所に行くことができます。一日で全世界を飛び回ることもできるのです」と、まるで夢物語のようなことを言いました。

 木工屋が王様に木馬のことを説明している時、王子も側にいて聞いていました。
 木の馬が空を飛ぶ、というおとぎ話のような話は王子にとても興味を抱かせました。

 王子は、この木馬に乗って世界を旅して来ようかな、と思いました。

 「父上、僕、この木馬を試し乗りしてみたいので、許可して下さい」

 王様は王子をにらみつけ、叱りました。

 「いいや、だめだ。許可はしない。まだこの木馬のことがよく分かってはいない。ほんとに飛ぶのか、飛ばないのか。いいか、さわってはだめだぞ、わかったな」

 「王様、ほんとです。この木馬はほんとに飛ぶことができるのです。あぶなくありません。右の耳をひねって下されば舞い上がります」

 木工屋は木馬が本当に空を飛べることを熱心に説明しました。

 側で聞いていた王子はこの話を聞き、ますます木馬に乗って旅したくなりました。
 それで、王様に繰り返し繰り返し、木馬に乗せてくれるようにお願いしました。

 王様は一人息子の王子をとても可愛がり、大事に育てていたので、王子の望むことは何でもかなえさせていました。
 今度も王子が何度も願うので、仕方なく許可しました。

 王様は王子のことをとても心配しながら、王子を見送りました。

 「王子よ、私はお前と一分たりとも離れたくはないのだ。お前と一分も会わなければ、私はとても耐えられないのだ。ここの近くを飛んで、早く帰っておいで。あまり遠くへ行ってはだめだぞ。木馬にしっかりつかまっていなさい」

 王子はやっと王様が許してくれたので、飛び上がって大喜びし、早速、木馬にまたがりました。

 「じゃ、父上、行って来ます。さようなら」

 王子は木馬の右耳をひねってみました。
 すると、木馬は王子を乗せ一瞬にして、大空に舞い上がりました。
 しばらく飛んで王子が地上を見ました。

 「うわー、ものすごい」

 山、川、樹、家それに人、目に見えるものみんな、まるで仙人の鏡をのぞいたようで、とても美しく、すごく小さく見えました。
 この夢のような面白いものを見ている内に王子は、今さっき王様が言ったことをすっかり忘れてしまいました。
 高いところを飛べば飛ぶほど、地上にあるものはすばらしく見えました。
 王子は嬉しくて夢心地でした。
 さらに木馬の右耳をひねると、瞬く間に眼下に見えていた美しい風景が消えて見えなくなりました。
 あまりの面白さに我を忘れ何時間も空を飛んでいると、王子はお腹が空いてきました。
 木馬の左耳を少しずつひねってゆっくりと地上に降りて行くと、どこか知らない町が見えてきました。
 王子はその町のある宿に行き、お腹をいっぱいに満たして休みました。
 大きくなってもよそに行ったことがないこの王子は、知らない町に来れたので、嬉しくてなかなか寝付けませんでした。

 翌日、王子は朝早くから起き出して町見物に出掛けました。
 あちこちぶらぶらして、町の通りという通りは全部歩き回りました。

 ある路地から大通りに出て広場へ来ると、まるでバザールの日かお祭りの日のように人だかりしていました。
 この人達はみんなどうしたんだろうか。
 空に何かあるらしく、みんな顔を空に向けて見上げていました。
 王子も人混みの中に入り、みんなと同じように顔を空に向けました。 でも、何にも見えませんでした。
 王子は、どうしてみんな空を見上げているのか不思議に思い、側にいる人にたずねました。

 「ねー、兄さん、みんな何見てるの」

 「ははーん。ということは、お前さんこの町に最近来たんだね。じゃ教えてあげよう。俺たちの王様に一人娘の王女があるんだが、ほんとにべっぴんでなー、まあー、この王女に並ぶ娘は世界中どこを探しても見つかりっこないな。『月のような口、太陽のような目』のとってもきれいな娘なんだ。だから、王様は自分の命よりも大切にして、誰にも見せずに隠してるのさ。お城に置いとくと心配だから、魔法を使い、空に特別な家を造ってそこに住まわせてるんだ。王様は毎日、王女に会いに行くんだ。今も王女に会いに行ってる。もう少ししたら降りてくるから、俺たちみんな王様が帰って来るのを待ってるんだ」

 教えてくれた人は、王子を胡散臭そうにじろじろ見ていました。

 王子はとても不思議に思い、

 「いったい、どうやって空に家を造ったんだろうか」と独り言をいうと、

 「仙人が造ってくれたんだとよ。王女のいる所には王様のほかは誰一人行くことが出来ないんだ」と、同じ人が答えてくれました。

 王子はこの人の話を熱心に聞いた後、何か考え込みながら宿に帰って行きました。

 その夜、王子は宿の人たちみんなが寝静まったのを確かめると、こっそり起き上がって、さっと木馬にまたがるや、ふわーりと舞い上がりました。
 昼間見た広場の上空をぐるぐる旋回していると、聞いた通り空間に大きな家が見えました。

 「あー、この家だな、きれいな王女が居るというのは」

 王子は家の前に行き、戸を開け内に入って行きました。

 王女は物音がしたので、また父の王様が来たのかしら、と思って戸口に来てみると、王様ではなかったので驚きました。
 人間がここに来ることは絶対ありえないことだから、この人はきっと仙人なのでしょう、と思い込み王子を敬い手厚くもてなしました。

 王女は本当に『月のようで、太陽のようで』とても美しく、細くしなやかでとてもすばらしい娘でした。

 王子は王女を一目見るなり好きになりました。
 こんなきれいな娘と一緒に暮らせたらどんなに幸せなことだろう。
 極楽だろうなあ。
 どんなことがあってもいいからこの娘を手に入れてやろう、と心に誓いました。
 王子もとてもハンサムで朗らかな青年でした。

 王女は、王様が自分を誰にも会わせず人気のない所に一人住まわせているので、気がむしゃくしゃしていました。
 この若者のような若い友達が欲しくてたまりませんでした。
 この若者が仙人ではなくて人間であることを、またどうしてここに来ることができたのかを、この若者から聞き知ってとても喜びました。

 それで、若い二人は意気投合して親しく言葉を交わし、お互いの気持ちを打ち明け合いました。
 二人の間に愛情が芽生え、夜が明けるまで誰からも邪魔されることなく愛し合いました。

 夜が明けると、王子は王女に別れを告げ、木馬にまたがり自分の宿に帰って行きました。

 その日の昼頃、王様はいつものように王女を訪ねるため空に上りました。
 王様は、毎日、王女の所へ行く度に王女の体重を量るのでした。
 王様の考えでは、女の人が男の人と仲良くなると直ぐに体重が増える、というのです。
 今日、王様が王女を量ってみると、いつもより一キロ増えていました。
 これを知った王様はものすごく怒って、『目は湯飲み茶碗のように、ヒゲはトゲのように』なりました。
 可愛い王女の側には少しも居る気がしなくて、さっさと地上に帰って行きました。

 広場で王様を待っていた人々は、王様がすぐ帰って来たので、どうしたのだろうか、と不思議に思いました。
 大臣達も王様の様子を見て驚き、王様の側に駆け寄りました。
 王様は王女の所で何があったのかを一部始終話し、こう命令しました。

 「まったく、どういうことか、さっぱり分からん。いったい、わしの他に誰か空に上れる人間がいるのか。お前達、何かいい方法を見つけて早くその《犯人》を捕まえろ。もし、捕まえられなければ、お前達の首をはねるからな。いいか、きっと、捕まえるのだぞ」

 「王様、ご安心下さい。我々におまかせ下さい。我々の命を賭けても王様のご命令を実行いたします。我々には有名な騎士四天王がおります。王様、お許し下さればその騎士達が、王女様をお守りして、どんな人間であろうが飛んでくる鳥でさえも、彼ら四人の騎士から逃れることができません。どうぞ、ご安心を」と、大臣が自信を持って答えました。

 王様は大臣の話を聞いて大満足しました。
 その夜、四人の騎士を王女の居る空の家へ連れて行き、王女の守りをさせました。
 王様は王女と何も言葉を交わさず、さっさと地上へ帰って行きました。

 騎士四天王は、ただ目が覚めている時だけ強いのでした。
 眠ってしまうと、ハエが鼻から入って口から出て行っても気付かないほどでした。
 四人の騎士は、王様が地上に着くか着かない内に、ぐーぐーいびきをかいて深い眠りに入ってしまいました。

 王子は、また王女と一緒に夜を過ごしました。
 夜が明けると、王女に別れを告げ、こっそり宿に帰って行きました。

 この日も王様は王女の所へ行き、いつものように王女の体重を量ってみると、三キロも増えていました。
 王様は怒りに怒ってわめき散らし、いったい、どうしたらいいのか分からず、頭を抱え込んでしまいました。

 「王女の様子がおかしいらしい。何か起ったに違いないぞ」

 町では王女のことが噂になって広まりました。
 とうとう町の人々は、この《事件》のことを知ってしまいました。

 王様は恥ずかしくてたまらず、このことを何がなんでも解決させるために、また、大臣を呼んで強く命令を下しました。

 「ははー、そういうことでしたら...」

 大臣は言いかけてから口をつぐんで考え込み、しばらくすると何か名案を思いついたかのように、ぽんと手を打ち合わせ、にっこりとしました。

 「王様、あのー、こうするのはどうでしょうか。王女様の家の内外、それに、家具にも赤い漆を塗るのです。次の日、まちの者達を一人残らず調べ上げるのです。もし、誰かの服にその赤い漆が着いていたら捕まえるのです。こうでもしないことには《犯人》を捕まえることはできません」

 王様は大臣の提案に賛成して、必ず犯人を捕らえるように、と繰り返し命じました。

 その夜、王子はまた王女の家に行きました。
 家の様子がすっかり変わっていて、家の内外や家具に真っ赤な漆が塗ってありました。

 王子は、なぜ、漆が塗られているのかが分かりました。
 それでも、王子はどんなことになってもいいから王女と一緒に居ることを望みました。
 だから、王子は何が起きようが、全く気にしませんでした。
 王子と王女は一分たりとも離れられなくなっていました。
 二人は、また夜を共に過ごしました。

 翌朝、王子が服を着ようとすると、服の全部と靴が、まるで血が着いているかのように赤く染まっていました。
 王子の服と靴は特別製のとても高価なもので、服には宝石が縫い込まれていて、靴の鋲は金でできていました。
 もし、この服と靴を捨ててしまわないと、秘密がばれてきっと捕まえられるだろう、そうなれば、二度と王女に会うことができなくなる、と考えた王子は思い切って捨てることにしました。
 それで、王子は下着姿、裸足で宿へ戻って行きました。

 この町に一人の長老が居て、徳を積むため毎日、人より早く起きて家家を回り、日の出前のモスク早朝礼拝参加を呼び掛けていました。

 ある日、いつものように早起きして、モスクでの早朝礼拝に参加するよう呼び掛けつつモスクへ続く道を歩いていると、何かきらきら光るものが道の真ん中にあるのが見えました。

 「何じゃろうか」

 長老が急いで近付いてみると、これが、王子や金持ちの息子たちが着るような服でした。
 手に取ってみると、服には宝石がいっぱい縫いつけてあり、また、側にあった靴の鋲は金でできていました。
 この長老の喜びようは大変なもので、心臓が今にも止まってしまいそうなくらいはしゃぎ回りました。

 「こりゃ、わしが毎日、アッラーのために尽くしておるんで、今日、アッラーから報酬を賜ったようだわい。御利益じゃぞ。ほんに、アッラーの思し召しに違いあるまいて」

 長老はアッラーに何度も何度も御礼を唱えました。
 そして早速、『アッラーから賜った』服を着、靴を履くとにっこりしました。
 そして、喜びいさんでモスクへ入って行きました。
 身につけている服や靴の秘密を知ろうはずがありませんでした。
 まだ早いのでモスクには、この長老より他に祈っている人はいませんでした。

 早朝礼拝が終わり、人々がモスクの庭に出て行きました。
 しかし、王様の命令で町中の人は一人ずつ調べられるため、モスクの外に出してもらえませんでした。
 人々は長い列を作って自分の順番が来るのを待っていました。
 しばらくして、あの長老もモスクの庭に出て来ました。
 長老の着ている高価そうな服や靴を見た人々は驚き、ほめ合いました。

 大臣が検査するためにモスクへやって来ました。
 順に調べて行き、最後に長老の番になりまた。
 長老の着ている服には赤い漆がべっとり着いていました。
 これは、きのう王女の家のあらゆるものに塗った赤漆に間違いありませんでした。
 大臣が大声上げて呼びました。                  
 「警備兵、警備兵」

 警備兵達は直ぐさまこの長老を取り押さえて縛り上げると、王宮に連れて行き、牢屋に放り込みました。
 長老は突然捕らえられて縛られ、王宮に連れて来られて牢屋に入れられました。
 何がなんだかちっとも分からず、抵抗する間もありませんでした。
 どうしてこうなったのか、なぜ牢屋に入れられたのか、全く身に覚えがありませんでした。
 これからどうすればいいのか分からず、ただ泣き叫ぶだけでした。
 拷問され、いろいろ問われても、長老には何のことかさっぱり分かりませんでした。
 自分は神賭けて無実であり、何も知らない、と繰り返し答えるだけでした。

 「空を飛べる人、というのは、いったい、どんな人なんだろうかー。一度見てみたい。早く死刑の日が来ないかなー」

 町の人々はこの不思議な事件に驚くと共に興味を持ち、噂し合いました。
 まもなく、長老の死刑日がやって来ました。

 「無実の人が、僕の身代わりに死刑にされるのを黙って見てることはできない。早く助けに行かなければ」

 人々の噂話を聞いた王子は木馬を抱え、絞首刑台の側に走って行きました。

 絞首刑台の上ではあの長老が首に縄をかけられ泣き叫んでいました。

 王子はあらん限りの声を張り上げ、

 「おーい、おーい、死刑執行人、待ってくれー。その老人は無実なんだー。死刑にするなー。真犯人は僕だー。王女の所に行ったのはこの僕だー。僕が王女の家に泊まったんだー。その老人は何の関係もない人だー。老人の着ている服は僕が捨てたものなんだー。靴も僕が捨てたんだー。早く老人を自由にしてやってくれー。殺すなら僕を殺せー。僕が真犯人だー」と叫びました。

 この叫び声を聞いた死刑執行人は手を止めました。

 この日、王様は犯人の絞首刑を見ようと、死刑台が見える城壁に上っていました。
 死刑執行人が刑の執行を中止したのを見た王様は、理由を知るため護衛兵を死刑台へ走らせました。
 しばらくすると、護衛兵が戻って来て死刑中止の訳を話しました。

 「それじゃ、その者を早く死刑にしろ」

 死刑執行人は王様の命令で老人を解き放してやり、代わりに真犯人の王子に縄を掛けようとしました。
 しかし、王子は素早く身をかわして木馬にまたがるなり、弾丸のように速く空に舞い上がりました。
 王子に逃げられた死刑執行人は、まるで、魔法でも見たかのように目を見開き、口をぽかんと開け、木馬に乗って空を飛び逃げ去って行く真犯人を見つめていました。
 死刑を見物するために集まっていた人々も、夢物語にあるような出来事を見て大騒ぎしました。
 王様は地団駄踏んで悔しがり、怒りに耐えきれず失神して倒れこんでしまいました。

 絞首刑からかろうじて空に逃げ延びた王子は王女の所へ行きました。 そして、今日何が起こったのか、これからどうするつもりかを王女に話しました。

 「僕達二人のことが王様に知れてしまった。九死に一生を得てここまで来たんだ。もうここには一分たりとも居ることができない。神様が与えて下さった運命により、僕達二人は恋人同士になった。二人の愛情も日増しに増している。なにがあっても決してあなたと離れたくない。もしよければ一緒に逃げよう」

 「あなたとどこまでも、いつまでも一緒にいます。死んでも離れたくありません」

 「それなら、さあ、早く行こう。木馬に乗ろう」

 王子は王女を急がせて空の家を逃げ出しました。
 木馬は二人を乗せ飛び立ちました。

 しばらく飛んでいると、突然、王女が、

 「あっ、ちょっと待って、停まって、私大事なものを忘れてしまったわ。私の小さい頃、お母様からいただいた宝物二つを置いて来てしまったの。お母様が私に、お嫁に行ったら一つを義父に、もう一つを義母に差し上げなさい、とおしゃったの。その大事な宝物を忘れました。どうしても、取りに戻らなければいけないわ」と、心配顔で言いました。

 「逃げ出してから随分時間が立ってるんだ。ここから引っ返せば危険だ。捕まえられるかも知れないよ」と、王子も心配して言いました。

 「いいえ、どうしても取りに戻ります。もし、宝物がないと、私、義父や義母に会わす顔がありませんわ。お母様の言いつけなんだもの」と、王女はだだをこねました。

 王子は王女の心を傷つけないため、仕方なく戻ることに同意しました。

 王子は木馬を砂漠の中に降ろして、王女が帰って来るのを待つことにしました。

 王女は一人木馬にまたがり、宝物を取りに戻って行きました。

王様は失神してからしばらくして気が付くと、直ぐさま王女のいる空の家に上りました。
 しかし、どこを探しても王女の姿は見当たりませんでした。命よりも大切な王女がいなくなったので、王様は我を忘れ大声で泣き叫びました。
 王女をどうして探したらいいのか分からず、おろおろしていると、王女が木馬にまたがり戻って来るのが見えたので身を隠しましまた。
 そして、王女が家に入って来るなり捕まえて王宮に連れて帰り、部屋に閉じ込めてしまいました。


 この王様の国から遠く離れいる所に、ある国がありました。
 その国の王様に一人息子の王子がいました。
 その国の王様は、自分の国から遠く離れた所の国に、とても美しい王女が空の上の家で暮らしている、という噂を耳にして、その王女を自分の息子の嫁にしたい、と考えていました。
 そして、何度も使者を送りましたが、王女の父親の王様は断り続けていました。

 しかし、王女の父親は王女の悪い噂が国中に広まってしまった今では、とても恥ずかしくて王女を目の届かない所へやってしまおう、と考えました。
 それで、王女を嫁に欲しい、と言って何度も使者を送って来た、ある国の王様へ手紙を書きました。
 手紙を受け取った、ある国の王様は大喜びして結婚の準備をし、王女を迎えに王子、大臣と多くの護衛兵を盛大に送り出しました。


 さて、王女の恋人の王子はどうしているのでしょう。

 王子は王女が空の家に宝物を取りに行って戻って来るのを、今か今かと待ちわびていました。
 一日、二日、そして、三日待ちました。
 しかし、王女は戻って来ませんでした。

 「王女はどうしたんだろうか。僕を裏切ったのかなー。それとも、何か災難にでも遭ったのかなー。くっそー、木馬はないし、僕はこの砂漠で死んでしまうのかなー。そうしたら、僕の死体は動物達の餌になってしまうんだろうなー。あーあ、どうしよう」

 王子は身の上を案じ、溜息吐きました。
 辺りは見渡す限りの砂漠で、しかも、高い砂丘に取り囲まれており、どこからも人は現れないし、飛んでいる鳥さえ見えませんでした。
 砂漠は非常に暑く、まるで、カマドの炎が人を焼き殺そうとでもしているかのようでした。
 暑さと飢えの苦しみ、その上、のどの渇きが王子の気力を奪ってしまいました。
 夕方になり少し涼しくなると、身体が動けるようになりました。

 「『いい方法があれば、編みかごにも水がたまる』と言うじゃないか。僕も何か良い方法を探してみようか」

 王子はある高い砂丘の頂に登り、どこかに人がいないかな、と辺りを見回しました。
 しかし、どこにも人の気配はなく、煙さえ上っていませんでした。
 気を落とした王子は砂丘を滑り降り、かなり長い時間とぼとぼ歩いてひょいと前方を見ると、すごくきれいな樹々が青々と茂っているオアシスが見えました。

 「わーい、助かったんだ。生き返ったんだぞ」

 王子は大声上げ前方のオアシス目指し一目散に駆け出しました。

 そこには、色々な果物が熟し、色とりどりのきれいな花々が良い香りを撒き散らしていました。
 小川では水がざーざー音を立てて流れ、樹々の梢では小鳥がぴーぴーさえずっていました。
 数日来、飢えと渇きに苦しめられていた王子は、果物を食べるため果樹園の中に入って行きました。
 声を掛けましたが誰一人いませんでした。
 王子は桃の木の下でお腹一杯になるまでむさぼり食いました。
 しばらくすると、お腹が満たされたのか心地よい眠気がしてきて、桃の木の根本で眠ってしまいました。

 翌日、目覚めるとアゴのあたりがかゆいので触ってみると、真っ白いヒゲが顔一面に生えていました。

 「ひえー、いったいどうしたんだ。なにが起こったんだ」

 王子はびっくりして飛び起きました。
 夢を見ているんだろうか、と思って何度もヒゲを引っ張ってみましたが、全然抜けませんでした。

 「うわー、これは大変なことになったぞ。どういうわけでヒゲが生えたんだろうか」

 ああだこうだと考えてもいっこうに思い当たりませんでした。
 最後に頭上の桃の木を見上げました。

 「ははー、分かったぞ。もしかしたら、これかな。モモかー」

 昨日、桃をあんなにたくさん食べたことを思い出し、ヒゲは桃の仕業であることが分かりました。

 「あーあ、どうしよう。こまったなー。もし、王女が戻って来て、この白いヒゲを見たら何て言うだろうか。どうすればいいんだ。くっそー、早くなんとかしなくちゃ」

 王子は桃の木の周りをぐるぐる回りながら考えていると、また、お腹が空いてきました。
 桃は怖ろしくて食べる気がしないので、今度は梨の木の側に行き、黄色く熟した梨をお腹一杯になるまでたくさん食べました。
 そして、白いヒゲのことはすっかり忘れて梨の木の根本で眠ってしまいました。

 しばらく眠った後、背伸びして起き上がろうとすると、頭が重くて何かついているようでした。
 頭を触ってみると、長くて太いツノが二本生えていました。王子は驚きのあまりぶるぶる身震いし、おもわず叫び声を上げました。

 「うわーうわー、な、なんということだ。もう僕は終わりだ。大変なことになったぞ。人間から獣になってしまったんだ。王女が見たら何て言うだろう。こんな姿を王女に見せるくらいなら死んだ方がましだ」

 とうとう死ぬことになってしまった王子は、大声張り上げ泣き崩れました。
 あまりの悲嘆で泣き疲れた王子は、眠くなりました。
 深い眠りの中で夢を見ました。
 夢の中で、真っ白いヒゲの老人が王子の側に来て、

 「おい、兄さん、どうした。何をそんなに泣いているんじゃ」とたずねました。    

 王子は老人に自分の身の上に起こった事を一つ一つ詳しく語って聞かせました。

 「泣くな兄さん。何も心配はいらん。あんたはこの果樹園の秘密を知らんでこんな姿になったんじゃ。ここの果物を食べるにはちょとこつがあってな、木になっている果物と木から落ちて干し上がったものを一緒に食べるとあんたのようにはならん。さあ、食べてみてごらん。直ぐにヒゲとツノがなくなるから。兄さん、ここで寝ていてはいかんぞ。早く出て行きなさい。ここには悪魔がいるんじゃ。やつらは今、寝ておる。一度眠ると三日三晩、眠るんじゃ。もし、今日中に出て行かんと、やつらはあんたを生かしてはおかんぞ。これはわしの忠告じゃ」と、老人は言うと、王子の目の前から消えてしまいました。

 王子ははっとして起き上がり、目をこすって辺りを見渡しましたが誰もいませんでした。
 夢に現れた老人が言ったことを思い出し、直ぐさま乾燥した桃と梨を食べてみました。
 すると、夢の老人が言った通り本当にヒゲとツノがなくなってしまい、もとのハンサムな若者に戻りました。
 王子は夢の中の老人に感謝しました。
 そして、直ぐにここから逃げ出すことにしました。
 まず、木の枝を折ってカゴを編み、カゴの半分に熟した桃と梨を、残りの半分に乾燥した桃と梨を一杯にして出発しました。
 出発したものの、無限に広がる砂漠を見てふーっと大きく溜息を吐きました。
 日の出る方は、日の沈む方は、いったい、どっちなのかさっぱり分かりませんでした。
 自分の家は、王女の家はどこにあるのだろうか。
 もうどうなってもいい、とやけくそになって目の前を真っ直ぐ歩き出しました。
 お腹が空けばカゴの中の桃と梨を食べ、天を掛け布団に、地を敷き布団にして寝起きし、また歩き続けました。
 王子は七日七夜、砂漠をさまよい歩いた後、高い山の麓にたどり着きました。
 この山を数日間掛かって越え、ついに、大きな道に出ました。
 やっと、人が通る道に出てこられたので王子は、大きく深呼吸しました。

 「ふー、やれやれ、何とか人のいる所に近付いたんだ。ここでちょっと一休みして疲れをいやそう。誰か通るかも知れないぞ。そうしたら、ここがどこだか分かるだろう」

 王子はカゴの桃と梨を食べながら、人が通るのを待つことにしました。
 長く待つことなく隊商がやって来ました。
 王子はその隊商の人達から日の上る方角が自分の家で、日の沈む方角が王女の家であることを教えてもらいました。

 「『トラは後ろに退かない、男は自分の言った言葉に』と言うじゃないか。僕も自分の歩む道から決して後には退かないぞ。何か一つ良い方法を見つけて、王女と木馬を取り戻し、故郷に帰ろう」

 王子は王女がいる日の沈む方に向かって道を急ぎました。
 しばらく進んだ後、後ろを振り向けば、気勢を上げ砂塵を蹴たてて馬を疾走させている一行が近付いて来ました。
 その中には馬車も数台ありました。
 前の方を走っている馬車は、とてもきれいに造られており、ぴかぴか光って眩しく目がちかちかしました。
 その馬車を四頭の馬が引っ張り飛ぶように走っていました。
 馬車には恋人の王女の父親が王女を嫁にやろうとしている、ある国の王子が乗っていました。
 馬にまたがっているのは、王子と同行する大臣と護衛の兵隊達で、王女を迎えに行くところでした。

 王女の本当の恋人である王子が桃を食べながら一行が通り過ぎて行くのを見ていると、その一行の偉そうにしている大臣が、ぶっきらぼうに、

 「おい、お前。そこで何を売ってるのだ」とたずねました。

 王女の恋人の王子もぶきっらぼうに、

 「僕は何も売ってはいない」と答えました。

 大臣がカゴの中を指差しながら、

 「何も売ってはいないだと、カゴの中は何だ。桃と梨ではないか」と言いました。

 王女の恋人は梨をがぶりとかじり、口をもぐもぐしながら、

 「あー、これか。これは僕が食べるものなんですよ」と答えました。

 大臣は怒ってしまい、

 「何だお前は、無礼なヤツだな。いくらか売ってくれてもいいだろう。私達は国を出てから何日にもなる。陽は暑い。あの馬車の中には王子様がいる。王子様は暑さに耐えられないんだ。桃と梨を、な、売ってくれたのむ。王子様が食べるんだ。王子様がな」と怒鳴りました。

 王子はカゴをしっかり抱えながら、

 「だめです。誰が食べようと売りません。この桃と梨は道中、僕が食べるものなんです。見て下さい、この一望見渡す限りの砂漠を。石ころと砂の他に何が見えるというのですか。あなた方は馬だからいいけど、僕は二本足意外なにもない。目的地に到着するまで飢え死にしたくはありません。だから、これは誰にも売りません」と言い返しました。

 二人が言い争いをしていると、ピカピカの馬車の中にいる王子が、

 「おーい、大臣。何してるんだー。早く持って来ーい。モモー。喉が渇いて死にそうだー。早くしろー。ナシー」と叫びました。

 大臣は馬車の王子が叫んだのを耳にすると、懐から金貨を取り出し、桃と梨のカゴを抱えている王子に差し出しました。
 大臣から金貨をもらった王子は、仕方がないな、という風にしてカゴから桃と梨を取り出していると、大臣は旅の目的を話し始めました。

 王子は大臣の話を聞いて、驚きのあまり心臓が止まってしまいそうでした。
 まさか自分の恋人の王女が、目の前にあるぴかぴか光った馬車の中で、桃と梨を欲しがっている王子と結婚するなんて、まったく信じられませんでした。
 しかし、王子は顔色一つ変えずににっこり笑って、桃と梨をそれぞれ二個ずつ大臣に渡しました。でも、乾燥した桃と梨は上げませんでした。

 ぴかぴかの馬車に乗っている王子は、大臣から桃と梨を受け取るやいなや、飲み込むように一気に食べてしまいました。
 喉の渇きとお腹を満たしたこの王子は、がたごと馬車に揺られながら深い眠りに入って行きました。

 かなり時間が経って王子が目を覚ますと、顔がかゆい、頭が重い、左の手で顔を右の手で頭を触ってみると、ぎょっとしました。
 ぎゃーと声を出して起き上がり、もう一度ゆっくり顔と頭を触ってみました。
 左の手は真っ白いヒゲを、右の手は二本の太いツノに触れました。
 王子はあわてふためき、大声張り上げて馬車を停めさせました。

 大臣と護衛兵達は、何が起きたんだろうか、と馬から下りて王子の馬車に駆け寄りました。
 大臣が王子の馬車を開けてみると、何か得体の知れないものがおり、大臣は思わずうわーっと声を発しました。
 そして、よく見ると人間とも獣ともつかぬ、まるで鬼のような醜いものがいました。
 護衛兵達はぎょっとして後ずさりしました。
 王子の馬車を取り囲んだ大臣と護衛兵達は、いったい何がどうなったんだろうか、と首をひねるばかりでした。

 がやがやしているところに、桃と梨が入ったカゴを提げた王子が追付きました。
 王子は疲れもみせず元気に歩いていました。

 そこに、数時間前に桃と梨を買った大臣が、あわてふためいて何か叫き散らし、はーはー荒い息をしながら駆け寄って来ました。

 さては、桃と梨の効き目が現れたな、と王子がほくそ笑みました。

 大臣が怖い顔して、

 「おい、お前。さっき、俺に売ったものは何だ」とたずねました。

 王子は落ち着き払ってぶっきらぼうに、

 「えっ、何をって。桃と梨ですよ」と答えました。

 大臣が一層声を荒げて、

 「ど、どういう桃なんだ。どんな梨なんだ」と言いました。

 王子も大臣に負けないくらいに大声を出して、

 「どういうって。桃の木になった桃と、梨の木になった梨ですよ」と言い返しました。

 大臣が少し落ち着いて、

 「じゃ、どうしてお前の売った桃と梨を王子様が食べたら、ヒゲとツノが生えたんだ」とたずねました。

 王子がゆっくりとぴかぴかの馬車に近付き、扉を開けて中を覗きました。
 桃と梨を食べて醜くなった王子を見ても少しも驚かず、何か考え事でもしているかのような格好をして、

 「おかしいなー、僕は毎日この桃と梨を食べているのに、なぜ僕にはヒゲとツノが生えないのだろうか」と言って、しばらくすると、

 「ははー、王子様は桃と梨を食べてから眠りましたか」と、王子がたずねると、大臣と護衛兵達は口をそろえて、

 「そうそう、眠りました」と答えました。

 王子は諭すように、

 「ははー、やっぱりそうだったのか。このヒゲとツノは誰の仕業か分かったぞ。この砂漠じゃ、桃と梨は危ない。どんなものを食べてもその後、眠ってはいけない。何かを食べてよく消化させずに眠ってはだめだ。もし食事の後、眠ってしまえばこんな事になるんだ。過去にもたくさんの人がこんな風になった事があるけど。あなた方はこの事を知らなかったんですか」と言いました。

 みんなはうなだれて口々に、

 「はい、私達はそんな事は全然知りませんでした」と言い合いました。

 桃と梨の入ったカゴを提げ持っている王子は、嘘をつくのをとても面白がりました。
 あのヒゲとツノを生やした王子の顔を思い出すと、もう少しで笑い出すところでした。
 でも、慎重に事を運ばねばいけないので何とか笑いをおさえていると、護衛兵達の間で口論が始まりました。

 「王子様がこんなみっともない姿では、王女様を絶対嫁にすることが出来ない。だから、ここから引き返した方がいい」

 「おれたち、王子様をこんなにしてしまって、王様に何て言えばいいんだ。何かいい方法を見つけて、王子様を元通りにしよう」

 「何年も待ったんだ。どんな事があっても必ず王女を手に入れようと決めてたんだ。それが、王女の方から嫁にして欲しいと言って来た。夢のような話だ。ついに夢がかなうんだ。それを諦めて国に引き返すなんて、何がなんでもそんな事は出来ない。お前達、何とかあの王女を手に入れる方法を考えろ。もし、王女を手に入れることが出来ないと、お前達どうなるか分かってるだろうな」

 醜くなった王子は、肩を震わせ涙をぽろぽろ流しながら頑として引き返すことに同意しませんでした。
 しばらくして、何か名案が浮かんだ様子の大臣が、にこにこしながら醜くなった王子の側に行き進言しました。

 「王子様、えーっと、私の考えは、誰かハンサムな若者を探し出します。その者に王子様の格好をさせます。そして、王女様を迎えに行きます。我が国に帰ってしまえば、後はどうにでもなりましょう。主人に逆らうことは出来ません。他には何も方法がありません」

 この大臣の提案に醜くなった王子は満足し、早速、実行するように命令しました。
 しかし、自分達一行の中には、王女に似合いの若者は一人もいませんでした。
 誰一人として桃と梨の入ったカゴを提げている王子のようなハンサムな若者はいませんでした。
 大臣はこの桃と梨を売った若者をだまそうと近付いて行き、自分達が何をしようとしているのかを話して、協力を求めました。
 助けを求められた王子は内心とても喜びました。

 王子は素知らぬ顔して、大臣の頼み事を断りました。

 「あなた方のことだから、あなた方で解決すればいい。僕には何も関係がない。僕は道を急ぐただの旅人です。そんな難しいことを僕に頼まないで下さい。急ぎますから、早く先を行かせて下さい」

 しかし、大臣はこの若者以外に頼める者がいないので、どうしてもこの若者に醜い王子の代わりをしてもらわねばばならない、とこの若者に何度もくり返し懇請しました。
 それでも、この若者は怒ったような表情をしてきっぱり断り、そっぽを向きました。
 大臣は、これほど頼んでも駄目ならこうするか、と懐から金貨を取り出し、若者の目の前で金貨をちらつかせながら、

 「どうだ、金貨五枚でやってくれんか」と頼みました。

 若者はそっぽを向いたまま、ぶっきらぼうに、

 「いやです」と返事しました。

 大臣は泣きそうな顔をしながら、拝むようにして、

 「じゃ、あと二枚足して金貨七枚でいいだろう。な、たのむ」と声を掛けました。

 若者は大臣の方に向き直って、しぶしぶ承知した、という口振りで、

 「仕方がないなー、じゃー、やってあげます」と返事しました。

 やっと若者が承知したので、大臣は飛び上がらんばかりに大喜びし、にこにこ顔で若者の手を握り、肩をたたき何度もお礼を言いました。
 これで、自分の役目が果たされたので一安心し、ほっと溜息吐きました。

 それで、桃と梨の入ったカゴを提げていた王子は、ヒゲとツノが生えて醜くなった王子の身代わりとなって服を着替え、ぴかぴかの馬車に座ることになりました。

 ヒゲとツノが生えた王子は別の馬車に乗り移つされ、頭を布で覆い隠されました。
 その上、大臣から、

 「王子様、王女の国に着いたら一歩も外に出ては行なりません」と諫められました。

 やがて、一行は王女の国へやって来ました。

 「今日、王女を迎えに婿になる王子一行が来るから」

 王女の国では、王女の父の王様が国民を総動員して歓迎の準備をさせました。
 そして、客人達が到着すると国を挙げて歓待しました。

 王様は娘の婿になる王子と会い挨拶を交わしました。
 見れば、とてもハンサムな青年で、しかも、お土産に数え切れないほどの金銀宝物を持って来ていました。
 王様は大喜びし、終始、にこにこと喜色満面で娘の婿になる王子を歓待しました。
 しかし、一方では、王女の悪い噂を知られてしまうのではないか、と気が気ではありませんでした。
 それで、早急に結婚式を挙げさせて送り出そう、と事を急がせました。
 大金を費やして準備をしてやり、七日七夜の婚礼を滞りなく執り行ってやることにしました。

 結婚式の日、老人達と若者達は別々に座り、朝から夜中までわいわいがやがや賑やかに歌や踊りを楽しみ、おいしいご馳走やお酒に舌鼓を打ちました。
 王様は、王女のことがバレはしないかと気をもんで、楽しむどころではありませんでした。

 一人花嫁衣装に身を包み、ベールで顔を覆った王女は、宴会が盛り上がっているのをよそにじっと壁を見つめたまま、恋人の王子のことを想い浮かべながら泣いていました。

 王様は、王女が結婚を嫌がって泣いてばかりいる、と聞いてなおさら心配になりました。

 「王女に恋人がいることが分かってしまえば、この結婚は取り止めになるだろう。そうなれば、国民からも、よその国からもいい笑い者になる。何としても、王女の秘密を知られぬようにせねばならん」

 王様は灼熱の砂漠に放されたニワトリのように、一カ所にはじっとしておられませんでした。

 婚礼七日目の最終日は、さらに盛大に祝いの宴が張られました。

 王子は、自分の正体を王女に知らせようと王女の側に行って、そっと耳打ちしました。

 しかし、王女は全く信じることが出来ませんでした。
 でも、王子が何度も同じ事をいうので、少しずつベールを上げてうつむきかげんに相手の顔を見ると、本当に目の前にいるのは心から愛する王子本人でした。
 これは、夢なのか、現実なのか王女は嬉しさのあまり、失神しそうになりました。

 王子は、他の人、特に王様に感付かれないように、と王女に黙っていることを頼みました。

 それで、二人は初めて会った者同士のように振る舞っていました。

 王子は、小声で王女にどうしてここに来たかを話し聞かせた後、真剣な顔をして、

 「いいかい。明日、王様は僕達を見送る。もし、僕達二人があなたを迎えに来た者達と一緒に行けば、あなたは一生あの醜い王子のものになる。僕は放り出されるか、殺されるかのどっちかだ。そうなれば、僕達二人は二度と会うことが出来ないだろう。だから、どうしてもやつらから逃げ出さなければならない。とにかく逃げることだ。逃げ出すには木馬が必要だ。明日、王様に『お父様、木馬を下さらないと、私、参りません』と言い張りなさい。王様がどんなことをしてあなたを脅そうとも、無視なさい。可愛いあなたにだだをこねられると、王様は何にも出来ないから、きっと、木馬を下さるだろう。木馬がないと僕達は、離れ離れになるんだ。分かったかい」と言いました。

 王女は必ず実行することを誓いました。

 婚礼最終日の宴会は、今、最高潮に達し、総ての人々の注意は、新郎と新婦に注がれました。

 二人が和気あいあい談笑しているのを見ていた王女の付添婦の老婆は、直ぐさま王様へ報告しに行き、王女と婿が仲むつまじいことを、また、とてもよくお似合いの夫婦であることを伝えました。

 王女のことをとても心配していた王様は、老婆の知らせを聞いて安心し、結婚式最後の日だけは心ゆくまで楽しむことが出来ました。

 夜が明けて日が変わり、早朝にもかかわらず婚礼に参加した客人達は、王子と王女を見送るため勢揃いして待っていました。

 王子はすでにぴかぴかの馬車に乗っており、後は、王女が出て来るだけでした。

 しかし、王女はなかなか出て来ませんでした。

 見送り人達が、なぜ王女は出て来ないのかと、口々にひそひそ話を始めました。

 王様は、お客を待たせてなかなか出て来ない王女に腹を立てました。

 来賓達の中には、よその国から来た人達もいたので、王様はとても恥ずかしい思いをし、直ちに侍女を王女の所に遣わせました。

 侍女が戻って来て王様に、

 「国王陛下、王女様が出ていらっしゃらないのには、理由がございます」とかしこまって報告しました。

 王様は苦虫をかみつぶしたような顔で、

 「うむ、どんなことなんだ」と聞きました。

 侍女はまるで自分が叱られているかのように縮こまって、

 「王女様は、『お父様が木馬を下さらなければ、出て行きません』とおっしゃています」と返答しました。

 これを聞いた王様はものすごく怒り、直ちに死刑執行人を呼びました。
 やがて、死刑執行人が王様の前に整列し、命令が下るのを待ち受けていました。

 来賓達は、いったい何が起こったのだろうか、と不思議がりました。 その中の一人が王様の怒りを鎮めようと、

 「およし下さい、国王陛下。そんなにお怒りにならないで下さい。遊び好きな若者達は、いらいらして気分が悪い時、遊んで気分を紛らすものです。王女様のご希望されたものをお上げ下さい」と、王様をなだめました。

 王様はお客に免じて渋々、木馬を王女に与えました。

 やっと、王女が来賓達の前に出て来ました。

 わーわーと大歓声に包まれた新郎新婦は盛大に送り出されて行きました。

 新郎新婦とその一行は数日間道を進み、ヒゲとツノが生えて醜くなった王子の国へ近付いて来ました。

 新郎新婦の王子と王女は、逃げるチャンスをなかなか見つけられませんでした。
 もし、醜い王子の国に入ってしまえば、二人は二度と会うことが出来ないのでした。

 王子が王女に小声で、

 「いいかい、宮殿の前に着いたらこう言うんだ、『私、自らの手で七皿の金貨をばら撒かないと宮殿には入りません』とね。やつらは仕方がないので金貨七皿を用意するだろう。そうしたら、金貨を思いっきりばら撒いてやるんだ。また、『王子様も、大臣も、学者達もみんな出て来て金貨を拾って下さい』と言えば、やらないはずはない。やつらが金貨に目を奪われている隙に木馬に乗って逃げ出そう」と、これから始まる芝居の筋書きを、語って聞かせました。

 一行がちょうど宮殿の前に来たところで、王女は王子が教えてくれた筋書き通りに金貨七皿を要求しました。

 宮殿では仕方なく王女の要求通り、盆七つに金貨を山盛りにして持って来ました。
 それで、王女は用意された盆の金貨の小山、七つの内一つを手に抱え持ち、

 「みなさん、今日はおめでたい日です。この金貨は私からみなさんへの贈り物です。金貨は拾った人に差し上げます。さあ、みなさん拾って下さい」と言って、次々に撒き散らし始めました。

 空は黄金色の雨が降ったように、道は黄金色の雪が積もったようにきらきら輝いて、眩いばかりでした。

 ヒゲとツノが生えて醜くなった王子、大臣、学者達を始め、侍女、護衛兵達までが我先に金貨を拾おうと、王女の周りを取り囲みました。

 王女は用意された金貨全部を撒き終えました。

 王女は人々が金貨拾いに夢中になっている隙をみて、木馬にまたがって待っている恋人の王子の所に駆け寄りました。
 王女が木馬にまたがるやいなや王子が木馬の右耳を素早くつねると、木馬は矢のように速く、そして、高く飛び上がりました。

 金貨を拾っていた人々が、逃げていく二人に気付いた時には、木馬は王宮の上空をゆっくり回り、やがて、馬首を王子の国の方角に向けていました。

 金貨拾い達は、まるで夢か魔法を見ているようで、口をぽかーんと開け、目を大きく見開き、木馬にまたがり空を飛んで逃げて行く二人を眺めていました。

 だまされたことに気が付いたヒゲとツノを生やした王子は、気も狂わんばかりに大声上げて泣き叫び続けていました。

 うまく筋書き通りに逃げ出すことが出来た王子と王女は、日の昇る方角にある王子の国を目指し、まっしぐらに飛び続けました。
 そして、愛する王女をつれてしばらくぶりに、無事、故郷に帰って来ることが出来ました。

 王子の父の王様は、木馬にまたがりどこかへ飛んで行ったきり帰らぬ王子のことをとても心配して、今か今かと待ちわび、ついにはノイローゼになってしまったのです。

 「こんな事になったのは、木工屋のせいだ。木馬なんか作らなければ、愛する息子と離れ離れにならなくてもよかったのだ。悪いのは木工屋だ。磔にしてしまえ」

 王様は木工屋を捕らえさせ、牢屋に放り込ませました。

 木工屋が磔の刑にさせられるちょうどその日、王子が元気に、それに、とても美しい王女を連れて戻って来ました。

 王様は、王子が無事に帰り、元気な姿で目の前に現れたので、涙を流して喜びました。

 王子は王様に心配掛けたことを謝り、木馬にまたがって飛び去ってから今日戻って来るまでを、また、一緒に連れて来た王女のことを逐一話して聞かせました。

 それから、木工屋を自由にして欲しい、とお願いしました。

 「父上、あの木工屋が作った、この素晴らしい木馬がなっかたなら、僕はあんなに面白い旅は出来なっかたでしょう。いろんなものを見、いろんな事を経験しました。それに、見て下さい、こんなに美しく賢い王女とも巡り会うことはなかったでしょう。ですから、父上、木工屋は僕の恩人です。早く牢屋から出して上げて下さい。ほうびもたくさん上げて下さい」

 王子が木工屋にとても感謝していることを知った王様は、無実の罪で木工屋を捕らえ、牢屋に入れ、磔の刑にしようとしたことを恥じて謝罪しました。
 そして、直ちに木工屋を牢屋から解き放し、丁寧にもてなすよう護衛兵に命令しました。
 王様は自ら木工屋に詫びて、たくさんのほうびをやりました。
 また、これからもなお一層仕事に精を出すようにと、励ましの言葉を掛けました。

 国を挙げて、王子と王女の正式な婚礼が四十日間、昼夜執り行われました。

 そして、王様は年老いたので王位を王子に譲りました。

 それで、王子は王様となってこの国を治め始めました。

(了)



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2006-12-01(Fri) 20:13 民話 | 編集 |


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